脂肪酸スキンケア

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皮膚の構造としくみ

1 皮膚の機能

 私たちの体の表面を覆っている皮膚の役割は、単に「体の内と外を仕切る」というものだけではありません。
普段、私たちは特別、意識していませんが、以下のような極めて重要な役割を果たしているのです。

・外からかかる圧力(気圧など)と、体内の圧力との平衡を保っている
・表皮に張り巡らせた毛細血管網による放熱と、汗の分泌による体温調節が行われる場である
・紫外線による破壊作用から体内部を防御している
・皮膚上の感覚器で受ける刺激により、外部の状況を感知する

など。

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2 皮膚や付属器官のしくみ

 皮膚は大きく三層に別れています。「表皮」「真皮」「皮下脂肪層」です。

・皮下脂肪層(Subcutaneous fat layer)
 最も最下層である、皮下脂肪層には、文字通り、脂肪が主体となって、上に重なる真皮、表皮を支えています。また、動脈や静脈などの血管が通っていて、皮膚に必要な栄養が届けられたり、生成された老廃物を運びさる経路になっています。皮下脂肪は、外からの衝撃を和らげたり、体温の保持や、外からの熱を遮断する役目も担っています。また、汗腺(エクリン腺やアポクリン腺)もこの層に根ざしています。


・真皮層(Dermic layer)
 皮下組織(皮下脂肪)層の上にある層で、部位にもよりますが、およそ2mmほどの厚さがあるとされています。この層の主成分は繊維状のタンパク質であるコラーゲンです。またエラスチンというタンパク質も加わって、ネットのようになっています。ここに、ヒアルロン酸というゼリー状の成分を含み、肌の弾力を与えています。これらの成分の中に、真皮幹細胞と繊維芽細胞という細胞が点在しています。実は、真皮層を満たすコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸は、この繊維芽細胞が生成したもので、繊維芽細胞は真皮幹細胞が生み出したものです。

 真皮層には、皮下組織まできている動脈から分岐した毛細血管が張り出していて、さらに老廃物を運び出すために、静脈へと折り返しています。この毛細血管から酸素や成長因子を受け取ることで、真皮幹細胞は繊維芽細胞を生み出します。
生み出された繊維芽細胞もまた、これを増殖・活性化させる因子を受け取ることで働きを活発化させ
、その結果、コラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸などを生み出しているわけです。
そして、活動の結果排出された老廃物も毛細血管へと戻し、静脈へと流して行きます。
 真皮層には血管のほか、リンパ管も通っています。さらに皮下脂肪層に根ざした汗腺も、外皮に向け、この層を貫いています。

・表皮層(Epidermal layer)
 皮膚組織の中で一番、外側の層で、厚さは平均で0.2mmほどの層です。表皮層はさらに、その構造や働きから4つの層に分けられます。

 ・基底層(Basal layer)
 表皮層の最も最下層の層で、たった1枚の層を差します。この層は表皮幹細胞を含む基底細胞という細胞で構成されています。この層の
すぐ下に基底膜という膜をはさんで真皮層があります。基底膜は波状に形成していて、その上の基底細胞も波打つように並んで配置され、基底層を成しています。基底細胞は、その働きに必要な栄養・成長因子を得ることで、角化細胞(ケラチノサイト)を生み出します。したがって、これが目に見える皮膚のターンオーバーの起点になります。基底層で生まれた角化細胞は、新たに生まれてくる角化細胞に押し上げられるようにして、基底層から離れて行きます。基底層から離れ、有棘層、顆粒層を経て、最表面である角層へと上がっていくわけですが、それに伴って、角化細胞は表皮組織に必要な成分などを生み出しながら、角化細胞自身も角層細胞へと段階を経て変わっていきます。角層細胞とは、基底層から離れながら変化していく角化細胞の活動が終わり、主成分であったケラチンだけ(角化細胞なったばかり細胞内にはNMFも含まれています)となった姿で、言ってみれば角化細胞の屍骸であるとも言えます。しかし、このケラチンだけとなった角層細胞こそが、乾燥から体を守るレンガの役割を果たしているのです。また角化細胞が角層細胞へと変化する過程で生み出したスフィンゴシンは、角層細胞間をうめる細胞間脂質の元になります。言ってみれば、レンガの間をうめるモルタルにも例えられます。
さらに、基底層には、メラノサイトもあり、メラニンを生成して、紫外線の体内侵入を防御する役割も果たしています。

 ・有棘層(ゆうきょくそう)(Stratum spinosum)
 基底層で生まれた細胞や成分が次に上がる層です。その細胞の姿が、顕微鏡で見るとトゲとトゲが細胞同士を結びつけているように見えることから、名づけられた、とされています。

 ・顆粒層(‎Granular layer)
  有棘層の次に上がる層です。細胞が顆粒状に見えることに由来するそうです。基底層では栄養も潤いも満たされていたケラチノサイトですが、顆粒層の段階ではその作用が及びにくく、細胞としての活動が終わります。活動が終わった細胞は、すなわち細胞死を迎え、角化細胞(ケラチノサイト)だった細胞は、繊維状タンパク質であるケラチンを主性分とし、NMFという潤い成分を含んだ、核のない角層細胞をなります。また、生成したスフィンゴシンもこの過程の中で変化し、セラミドという脂質にかわります。

 ・角層(Stratum corneum)
  最表面の層です。角層は、角層細胞がレンガのように並び、またそのレンガの間は細胞間脂質でうめています。この細胞間脂質は、水にも脂にも親和する性質を持っています。これはその分子構造に、親水基、親油基をもつためで、層状に水を挟み込んだかたちとなっています。これをラメラ構造といいます。
 細胞間脂質はさきほどのセラミドがその半分を、また他の半分も、角化の過程で生成された遊離脂肪酸や、コレステロール、コレステロールエステルなどで占めています。
 角層では、汗腺の末端、つまり汗の出口である汗孔や、毛穴も口をあけています。
 
最表面となった角層細胞は、前述したように、すでに死んだ細胞であり、内側にある若い細胞を守るのが主な役目です。死んだ細胞とは言っても若い角化細胞はNMFも含んでいて、水分を保持する機能をもっていてます。したがって角層自体も保水能力をもっていますが、時間とともにこのNMFもなくなっていき、それに伴って細胞自体の保水能も落ちて行きます。やがて、最表面となり、乾燥してくると、ターンオーバーに準じて、垢となってはがれ落ちて行きます。


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3 見えないバリア 皮脂膜


 さて、実は角層は私たちの肉体を構成する細胞組織のなかでは最表面に位置しますが、剥き出しの状態で外部環境にさらされているわけではありません。私たちの目にはっきりとは見えない、バリアを纏っているのです。これが、皮脂膜です。
 皮脂膜とは、どういうものなのでしょう。皮脂膜の説明をする前に、皮脂膜の材料である皮脂、さらに皮脂分泌の意義をさぐる上で、切っても切れない関係である、体毛の話から始めましょう。

 私たちの皮膚表面をよくみると、ところどころから、体毛が生えています。とくに頭髪が生える頭部は、体毛が集中している箇所だといえますね。他にも体毛の生えている箇所を見ると、特に重要な機能をもつ箇所には集中しているようです。体毛が、体を守る目的で存在することがわかりますね。他の動物を見てもわかるように、皮膚ももちろんですが、体毛も立派なバリア機構のひとつです。
他の動物と比べると、ヒトにおいてはかなり退化し、薄くはなっているように見えますが、今でもきちんと機能を果たしています。
 体毛を生やすための細胞は、真皮組織に存在します。食事で摂られた栄養成分が届く真皮組織内には、毛となる細胞を生み出す毛母細胞があり、その毛をしっかり根付かせる毛根があります。毛母細胞から生える体毛は、表皮に向って伸び、外皮には毛穴が開いていて、そこから体の外部環境に顔を出した格好です。

 体毛が根ざす毛穴の奥には、皮脂を分泌する皮脂腺という器官が付属しています。皮脂腺内では、毛細血管やリンパ管によって運ばれ届けられる栄養成分から主に油分が拾われて皮脂として生成されます。皮脂の生成はわずかずつですが、しかし、じわじわと分泌され、毛穴から滲み出し、体毛や表皮を覆っていきます。この皮脂の存在を考えるとき、動物園や水族館にいるラッコの様子を思い出してみるとわかりやすいかもしれません。毛に覆われてフワフワに見えるラッコですが、皮脂がしっかり分泌され、毛先まで覆っていることで水をはじいていますね。ラッコ以外でも、水浴びをしないような動物でもツヤツヤした毛並みをしている動物は少なくありません。油分がつねに皮脂腺から分泌されていることで、不要なものが毛に付着しにくくなっているのですね。

さらに、皮脂には抗菌成分も含まれています。私たちの口腔や内臓、また眼球や鼻腔など、これら湿っている部分は、私たちの体内から分泌される粘液が覆うことで外敵の侵入を防いでいます。この粘液には、「リゾチーム」という酵素や、「ラクトフェリン」というタンパク質が含まれていて、これらが外部から付着してきた細菌やウィルスの活動を抑えているのです。これらの成分は皮脂にも含まれています。そのため、充分に皮脂の分泌がある皮膚上では、これらの抗菌成分が作用し、体に不必要な雑菌の繁殖が起こりにくくなっているのです。


 また、ヒトにおいては、皮脂分泌以外に、汗の分泌も盛んです。汗は主に水分を成分としていて、皮脂とは別に、汗を出す穴、「汗孔」から分泌されます。汗孔の奥には、「汗腺」という器官があり、表皮組織のなかのところどころに存在していて、主に水分をひろって汗を生成します。汗をかくことは、体温調節において大変重要です。体毛の薄い人間においては、とくにそう言えるでしょう。
汗と皮脂は、違うところから分泌されますが、最終的に皮膚のうえで混ざり合います。そして、皮脂と汗の混合物は一体となり、皮膚全体を覆うかたちとなります。このことから「皮脂膜」と呼ばれていますが、皮膚上に膜を張っている、というより、天然の抗菌クリームを薄く塗っていると考えたほうが解り易いかもしれません。皮脂膜は、油分主体の皮脂と、水分主体の汗が混ざり合うことで、エマルジョン、つまり、水性、油性、どちらの物性も兼ね備えていて、まさに天然のクリームとなって、滑らかに体全体を包んでいます。
さらに、皮脂膜の抗菌機能を語る上で、重要な要素がもうひとつあります。それは、皮脂膜それ自体が弱酸性である、ということです。
皮脂膜は油分と水分を成分として形成されますが、水分は比較的すぐに蒸散してしまうため、皮脂膜の最表面では油分が主体となります。油分は、空気にさらされると酸化しますので、結果、皮脂膜表面では中性よりもすこし酸性に傾いた、弱酸性となるのです。
この弱酸性であることも、皮膚に付着したブドウ球菌等の病原性細菌やウィルスなどの繁殖、侵入を防ぐ働きをしています。


コラム:皮膚常在菌の存在

皮膚における様々な防御機能についてご紹介してきましたが、最後にもうひとつ、皮膚に棲む菌についてもご紹介したいと思います。それは肉眼では捉えられない、ごくごく小さな存在ですが、しかし、どの人の皮膚にも必ず居て、皮膚常在菌と呼ばれます。さて、皮膚は皮脂膜に覆われていて、その皮脂膜は弱酸性で、しかも抗菌成分も含んでいますから、多くの微生物にとっては棲みにくい場所です。しかし、皮膚常在菌は、皮脂膜の抗菌作用に対しては比較的強く、また皮脂膜にふくまれる脂肪酸などの成分をエサにするなどして暮らしています。実は皮膚は完全な無菌状態でいるよりも、害を及ぼさない菌がほどほどにいてくれたほうが、有害な菌の繁殖を阻止することに繋がるので、私たちにとっては好都合なのです。
通常、皮膚常在菌は複数種あり、皮膚上はその菌の勢力争いが常に繰り広げられています。その勢力バランスが人間にとって無害である間はいいのですが、時として勢力バランスが崩れ、いずれかの菌だけが増えすぎるなどすると、無害であった存在が、有害な存在になることもあります。菌によっては、代謝生成物が皮膚によい働きをするものもあるので、これらの勢力が小さくなりすぎることも、皮膚の健康に影響します。

皮膚常在菌は私たちの目には見えない存在ですが、皮膚の健康を考える上で、けして無視できない存在です。

2015.09.29改訂

1 水分を守る城壁

 私たちは皮膚の1/3を失うと、命の危険にさらされることになります。皮膚を失うことで、内部組織が剥き出しになると、細菌などによる感染や侵入を防げなくなりますし、何より水分の蒸散を止めることができません。
 そもそも、生命は水が無ければ誕生しなかった、と考えられています。多細胞生物となって、より大きく、より多機能な体へと進化していきますが、その細胞ひとつひとつに水が不可欠であることに変わりはありませんでした。さらに、乾燥に耐えるよう進化し、生活の場を陸へと移していった生物も、やはり水分が枯渇してしまっては生命を維持できません。熾烈な生存競争を繰り返しながら、陸へと進出した生物ですが、それは「水分の確保」という、大きな命題を背負っての進化だった、と言えます。
私たち人間も陸で暮らす生物として誕生し、もはや水中では暮らせませんが、かといって、体内組成成分の約70%は水分であり、自ら大量の水分を蓄えて生きていることがわかります。この水分を守っている最も主要な器官が皮膚なのです。


2 強固な壁として、死んだ細胞を利用する

しかし、皮膚表面を見ると、他のどの組織、器官もたっぷりと水分を含んでいるのに比べ、限りなく乾いた状態にあります。皮膚の構造のところでお話したように、皮膚の最外層である角層を構成する角層細胞は、多少の保水能力は持っていても、それ自体は
もはや生命活動をしない、死んだ細胞に他なりません。死んだ細胞を盾にしながら、内側の水分を守っているのです。


3 角層の柔軟性を支えるファクター

角層を構成する角質細胞は、細胞とは名ばかりの、死んだ細胞のタンパク質成分が主体となったものです。死んだ細胞のタンパク質を皮膚の表面に貼付けて、内部の乾燥を防いでいるわけですが、しかし、柔軟性のある皮膚表面を覆うには、角層自体にも柔軟性が必要です。そこで、角層には、主成分であるタンパク質ケラチンの他に、細胞が皮膚組織内で成熟していく過程で生成したNMFも一緒に含まれています。このNWFは水分を捉える分子構造をしていて、これがあるおかげで、角層はまるで生きている細胞のように水分を蓄えることができるのです。さらに、同じく細胞が成熟する過程で生成されるセラミドなどの細胞間脂質が隙間をうめるように満たされていて、外部からの物質の侵入を防いでいます。角層は乾きやすくはあるものの、潤いを保持できる成分もちゃんと持っているため、柔らかく弾力もあるのです。

・1 細胞間脂質
表皮の角質層では、ケラチンを主成分とする角質細胞が並んでいて、その細胞どうしの間をうめるように存在しているのが細胞間脂質です。これが、水分の蒸散を防いでいます。細胞間脂質には、いくつか種類がありますが、中でも最も代表的なものが「セラミド」でしょう。スフィンゴ脂質という、脂質の一種です。

・2 NMF(ナチュラルモイストファクター)
 文字どおり、天然の保湿成分です。外界に接する角質層は常に乾燥に耐えなければなりません。そのため、角質細胞のなかには、うるおい成分を逃がさないためのNMFという物質が存在します。この成分を保持することで、細胞の外へ水分が逃げにくくなるのです。しかし、若い細胞内にはNMFが多く存在しますが、最表面に近づくにしたがって、次第にNMFを保持できなくなってきます。
 

角層
ラメラ構造



2015.09.25改訂 

1 肌が受ける様々なリスクについて知っておく

 様々な機能や仕組みによって、皮膚には体を守り、また皮膚自体を守るシステムがあります。
しかし、それをもってしても、外からの因子に負けてしまうときがあります。

[紫外線]
皮膚には太陽光に含まれる紫外線から体内を守るための機能があります。紫外線は細胞内の遺伝子を変異させ、働きを狂わせるリスク因子です。皮膚組織は、体内組織に比べて、紫外線への抵抗力があり、また紫外線から受けたダメージを処理する仕組みもあります。これにより、本来、有害な太陽光の下でも、私たちはその作用を体内環境に直接受けずに活動できるのです。しかし、現代は、薄くなってしまったオゾン層のせいで、さらに多くの紫外線が地表まで到達し易くなっているとされています。あまり多くの紫外線にされされると、皮膚細胞も処理しきれず、破壊されてしまいます。皮膚細胞が破壊されると、皮膚ガンなどを発症し易くなります。

[大気汚染物質]
大気汚染物質も、皮膚の健康には大きな影響をもたらします。自動車から排出される排気ガスに含まれる成分には、皮脂膜に付着すると、化学変化をおこし、皮脂膜や皮膚常在菌の働きを弱めてしまうものがあります。皮膚のバリア機能が破壊されると、皮膚は乾燥しやすくなり、刺激に敏感に反応するようになります。また、よかれと思って使っている化粧品やスキンケア用品の成分などが、リスク因子となってしまう場合もあります。

[活性酸素]
こうした外からの因子の他にも、私たち自身の体調の変化が、皮膚に影響している場合もあります。
食べ物やストレス、ホルモン分泌の変化によって、汗や皮脂として分泌される成分に変化がおきると、皮脂膜自体も変質することになります。皮脂膜の変化は皮膚常在菌のバランスにも影響するため、これら、様々な要素が複合的に合わさることで、皮膚のコンディションは時に大きく変化することがあります。
さらに、細菌感染や、病気などになれば、体内で活性酸素が過剰に発生することになり、これが細胞の働きを阻害し、皮膚のコンディションが悪化したり、疾患に発展することもあります。


3 化粧品の作用は、角層まで

さて、スキンケア商品の多くはそれぞれに様々な謳い文句を掲げながら、しかし、基本的に必ず含んでいるものがあります。それは、角層の潤い、すなわち水分を保たせる成分です。


ところが、角層の潤い成分は、年齢とともに減っていきます。子供の肌と大人の肌では、質感が違っていますね。子供の皮膚組織はまだ未熟でうすく、また細胞自体の新陳代謝も早いため、死んだ細胞とはいえ角層に上がってくる角質細胞にもまだまだたくさんの保水成分が含まれています。このため、子供の肌は弾けるようにみずみずしいのです。大人になるごとに、体は完成していき、新陳代謝の速度も落ち着き、皮膚組織も厚くなっていきます。角層はしっかりと外部からの侵入を防ぐ城壁のようになっていきます。子供のころのようなみずみずしさはなくなりますが、格段に乾燥に耐えられるようになっています。
厚くなった大人の皮膚では、その最外層の角層はどうしても保水力が落ちてきます。さらに、新陳代謝がおちてくると古い角質がいつまでもおちずに居残り、それがかえって内部の乾燥を招いてしまうこともあります。乾いた角質が厚くなると、シワが深くなり、みずみずしさも消えて、老けた印象になってしまいます。
この、乾燥しやすい大人の肌をケアするのが、ベーススキンケアの主たる目的です。角層の潤いを補うのは簡単なようで、実は難しいことです。単に水を塗っても、すぐ乾いてしまうように、角層に水を含ませたところで、あっという間に再び乾燥してしまいます。
スキンケアの知恵は古くから培われてきましたが、医学の進歩とともに、
皮膚の構造がより詳しく研究され、その知識がスキンケアにも活かされるようになっていきました。スキンケア商品のほとんどは、NMFや、細胞間脂質、あるいはそれに似た成分を配合したり、皮脂膜を壊さず補強できるような設計をしています。やはり、人間の皮膚には人間の体で生成したものが一番合うということなのですね。
科学技術が向上するに従い、人体が生成するものに、より近い成分を開発することができるようになって、今日の優れた化粧品、スキンケア用品が作られるようになっていったのです。 
とはいえ、スキンケアによる対処には限界があります。薬事法という法律によって、「化粧品」に分類されるものは基本的には角層より奥に浸透するように設計してはいけないことになっています。これは。人体の免疫システムを刺激して、深刻な事態に陥らないための予防策なのです。ですから、既製品によるスキンケアでできることは、あくまで角層への対応になるのです。

1 スキンケア商品は効果的かもしれないが、リスクもある

 ここまでで、皮膚が担う働きや機能、そして、皮膚の組織構造や、皮膚がさらされている様々なリスクについて、おおまかにご紹介してきました。皮膚についての知識をある程度もっていることは、皮膚のコンディションを保つためには必要なことですし、調子が悪いときには、その原因についてある程度見当をつけ、すばやく対処することができます。
 さて、では、自分の肌の健康のために何かをしようと考えるとき、あなたはどんなことを思い浮かべるでしょう。とかく、肌へのアクションと言えば、私たちはまず肌に直接、外から何らかのケアをしようと考えがちです。目に見えるトラブルにはなおのこと、そこだけにケアをしようとしますね。たとえば、傷や虫さされ、炎症とか、局所的なトラブルに適した薬を塗って治そうとすることは正しい選択です。また、患部の大小に関わらず、症状がこじれたり、異常を感じるなどした時は、医療機関での治療が必要になってきます。しかし、そのような病的ではない、肌の質感や、乾燥などの慢性的な肌の悩みにおいても、私たちは有効なスキンケアを探します。それも、できるだけ、てっとり早く、しかも、魔法のように効果のあるものを。

化粧品製造における技術の革新や、新規成分も多く開発される昨今は、たしかに目覚ましい進歩が見られます。日々、新しい商品が誕生しています。しかしながら、化粧品による問題も数多く発生しているのが実状です。問題発生の根本原因には、さまざまなものがありますが、特に新しく開発された成分が問題となる場合は、人体における検証が不十分であった可能性があります。また、成分自体が特別に新しいものでなくとも、材料や製造工程に変更が加わることで、分子構造などに違いが生じ、それがそれまでには無かった影響を及ぼすこともあります。化粧品の成分表示では、一般名称が使われることが多く、その名称だけではその物質の分子構造までは解りません。さらに、何より、人体のしくみは現在でも、完全に解明されていない部分が多くある、ということが挙げられます。
近年の様々なニュースから、消費者である私たちは、商品の区分が「化粧品」であるからといって、けして軽んじて扱っていいものではなく、技術が革新して効果が期待できる分、リスクをともなっている可能性をも把握しておかなければならないのかもしれません。


皮膚の健康には、これらの因子も影響するということを理解しておきましょう。




2015.9.25 改訂 

1 理想と現実 〜 自分本来のベストを求める

肌のコンディションは私たちのメンタル面で大いに影響しています。コンプレックスが消えて自信がつくと、人と会うことも楽しいし、積極的になることができます。私たちが皮膚の健康にこだわるのは、単に不快な症状を治したい、ということよりも、そうしたメンタルな面での大きな礎になっているからなのかもしれません。
 ところで、あなたにとって健康な皮膚とはどんな状態を指すのでしょう。白く、透明感のある肌でしょうか?それとも、少々日に焼けてもトラブルを起こさない強い肌でしょうか?吹き出物ができないような肌でしょうか?
私たちは、とかく「健康な皮膚」と「理想の皮膚」とを混同していることがあります。たとえば、あなたにとっての理想の肌を持つ人が違う人種の人だった場合、その違いが遺伝的な部分に由来するものであれば、どんな努力をしても同じ肌になるのはまず無理です。同じ人種であれば、かなり近くはなりますが、しかし、それでも個人差というのは大きいものです。兄弟、姉妹であっても、皮膚のタイプは異なっていて、まさに千差万別、と言えるのです。皮膚のタイプは個人個人で異なることをまず理解し、そのうえで、まずは自分にとってのベストな状態を目指すべきなのです。


2 皮膚の個人差はどこから

角層の保湿に重要な役割をしているものには、前述しましたように皮脂膜や、角層内部のNMF、細胞間脂質などがあり、スキンケア用品や化粧品のケアでも、これらを補って角層の乾燥を防ぐことが主眼になっています。
しかし、大人の皮膚が乾燥しやすいと言っても、その度合いには差がありますね。たとえば、気温の感じ易さが違うのに比例して、汗のかき易さが人によって異なります。汗をかき易い人や、皮脂が多い人はベタつき感を嫌がる人もいますが、汗や皮脂の出にくい人よりは、肌の保水力が高くなります。
汗や皮脂の分泌量は目に見える違いですので、すぐに差として思い浮かべることができますが、この他に、角層そのものの形成過程でも、人によって違いが見られます。つまり、角層のタンパク質や、NMF、細胞間脂質などの作り方が個人個人で少しずつ異なっていて、それが皮膚の個人差に繋がっているのです。

この差は、すなわち、私たちが両親から引き継いでいる遺伝情報の違いです。この遺伝情報に従って、細胞は生命活動を行うわけですが、生命とは長い歴史を生き抜くために、とにかく、さまざまな試行錯誤をしながら情報を伝えています。しかも、次世代に渡る際には、その都度、両親の情報を半分ずつミックスし、多様性を生むようにしているのです。つまり、私たち、ひとりひとりは、いわば遺伝情報のかけあわせによる試作品である、とも言えるのです。
このかけあわせた情報で生命活動をおこなった結果、表れてくる個人差が、いわゆる「体質」です。皮膚も体質によって、異なっています。

この体質が皮膚組織の形成過程に問題がある場合、たとえば、角層を構成するタンパク質の生成力が弱いとか、また皮膚組織内での細胞の成熟期間中に少ししか保水成分が生成できない人、などは、脆い角層や、乾いた角層しか作れないことになります。近年では、アトピー製皮膚炎患者のうち約25%に、フィラグリンというタンパク質がうまく形成されないパターンが発見された、という研究発表もされていて、しつこい皮膚症状の原因として先天的条件が関わっている可能性もあることが指摘されています。


3 皮膚のコンディションは、栄養状態で左右される

遺伝的な違いが皮膚の違いになることを述べましたが、実は、遺伝的な違いの他に、生活の違いも皮膚の状態に影響を与えます。中でも、栄養状態は皮膚のあり方に大きく反映されます。
角層を構築する角質細胞は、もとは基底膜から生まれますが、基底膜で新しい細胞を生み出すには、栄養や水分が充分に届いていることが必要です。これらは、私たちが食べたものが消化器官で消化吸収され、血流にのって組織まで届けられたものです。コラーゲンやエラスチンなどの、いわゆる支持成分をつくる肝細胞の活動にも栄養が必要です。

この栄養分に、たとえば、アミノ酸が少なければ、皮膚組織の主成分であるタンパク質の合成も少なくなることになります。ビタミンやミネラルは細胞活動にかかわっているため、不足すれば細胞の働きが充分にできないことになり、
本来なら生成されるはずのものが生成されないなどの現象が起きます。

皮膚については、何ら問題のない体質を持つ人でも、栄養の不足が原因となって脆い皮膚を作ってしまっている場合があるのです。ですから、困った皮膚症状が表れた場合、まず食生活を見直してみることも必要です。また、それとは逆に充分な栄養があることで、本来なら弱い皮膚しか構築できない体質の人でも、それがカバーされることもあります。
皮膚の問題は、体質が大前提にありながら、そこに適当な栄養が与えられているか否かで、症状の有無、あるいはレベルが大きく異なってきます。


4 肌の新陳代謝はホルモンによって、ホルモンは自律神経によって

細胞が生まれるためには、栄養が必要であることを述べましたが、実はもう一つ、重要なものがあります。それは、ホルモンです。ホルモンとは、私たちの体内で生成される物質で、いわば体内の組織や器官を制御するための連絡物質としての働きます。
実は栄養だけが豊富にあっても、皮膚を新しく生み出す基底膜や、組織内の肝細胞は働きません。ホルモンと呼ばれる物質から
活動に必要な因子を受け取ることで、はじめて細胞を生み出すための活動を始めるのです。新しい細胞が生まれることで、一番外にある角質は垢となって落ちますから、ホルモンの分泌が細胞の新陳代謝サイクルの直接の起点となっていると言ってもいいでしょう。

ホルモンは、私たちの体に備わる機能を、与えられた環境に適宜対応すべく、その都度コントロールするために分泌されます。しかし、このホルモンもまた、その分泌自体は、別のものにコントロールされています。それが、自律神経です。
自律神経は、私たちの考えでは、どうすることもできない神経組織で不随意神経とも呼ばれ、主に恒常性に関わっています。恒常性とは、体の健康状態を平衡に保とうとするシステムで、活動と修復をしながら、私たちが、遺伝子に組み込まれた「生物としての一生」を全うするのを支えます。

自律神経は、緊張を司る交感神経と、弛緩を司る副交感神経とで構成されていて、互いに相反する状態を支援します。交感神経は、緊張、すなわち、意識をはっきりさせ、思考や活動を活発化させるように働く神経で、そのためのホルモンを分泌して体を制御します。反対に、副交感神経は、弛緩、すなわち、体を休息させ、傷ついたり弱ったりしているところを修復するように働く神経で、やはり、そのためのホルモンを分泌して体を制御します。

私たちの生活は通常、1日のうちに、活動的な時間帯と休息する時間帯があり、それを交互に行い、繰り返しています。これらの強度や長さがバランスよく、またきちんと交互に行われる事で、自律神経の働きも整っていられ、かつ、私たちの生活リズムを支援するように、適宜ホルモンを分泌して支援します。しかし、不規則な生活が続くと、自律神経の働きは弱まり、本来分泌されるはずのホルモンも分泌されないことが起きて、健康に支障が出ることがあります。体をその時々に適したモードにするのを支える自律神経は、同時に体を守る防御システムをも司っているため、免疫の働きにも大きく関わっているのです。
リズムを意識して生活することは、
健康な皮膚状態の維持、ひいては体全体の健康の維持に繋がるのです。 
 

5 皮膚は代謝の状況を映す鏡でもある

 皮膚は、シールドとしての機能を主とする一方で、汗や皮脂を分泌し、古くなった角質細胞がはがれていく排泄器官としても見る事が出来ます。新陳代謝という生理現象のまさに現場である皮膚は、体内の代謝状況を克明に現わす器官でもあります。

新陳代謝の起点となるのは、新しい細胞の産生です。新しい細胞を産み出すためには、材料となる栄養が必要ですから、食事の状況が深く関わります。また、新陳代謝サイクルが円滑にまわるには、栄養だけでなく、自律神経のバランスや、ホルモン分泌なども影響してします。新しい細胞が基底層で生まれ、やがて角質細胞となり、最表面に出てはがれ落ちて行くまで、だいたい28日とされていて、これが次々行われています。このサイクルが停滞し、古い角質細胞がいつまでも皮膚の上にあると、乾燥し、固い肌となり、シワの原因となります。また、加齢によって、皮膚組織の細胞数や細胞活動を促進する成長因子の産生が減ることも、乾燥やバリア機能低下の原因となり、皮膚全体としての老化へと繋がって行きます。

 若々しい肌でいるには、新しい細胞を作り出し、古い細胞がはがれていくサイクル、すなわち「新陳代謝サイクル」を、どの過程においても滞りなく、回し続ける必要があります。先に述べたように、新陳代謝サイクルには、栄養状態とホルモン分泌が大きく関わってきます。栄養を摂り込むための「食事」と、ホルモン分泌に深く関わる「睡眠」を充分に取れる生活をしていれば、基本的には皮膚の健康を保つことができるはずです。
 しかし、忙しい毎日をこなす現代人の多くは、この基本的な条件を満たすことが出来ていないばかりか、この他にも多くの肌ストレスを受けているのです。  

6 健康な皮膚をつくる3つの要素

 では、ここで、健康な皮膚でいるための大前提をまとめてみようと思います。

 自律神経のバランスがとれていて、ホルモンの分泌に問題がなく、細胞の新陳代謝や皮脂分泌などがスムーズに行われていること。
 栄養がバランスよく、また量も充分に摂れていて、皮膚組織にきちんと届いていること。

これらが揃っていれば、基本的には皮膚は健康な状態に保たれるはずです。また、この状態こそが、あなたの皮膚の「ベストな状態」であるとも言えます。

では、この大前提を支えるために、私たちが生活のなかで気をつけるポイントをまとめてみましょう。

まずは、栄養、すなわち「食生活」です。次に、ホルモン分泌を司る自律神経のリズムを崩さないように生活すること。それも、出来れば、昼、夜のそれぞれの適した行動をきちんと行うことが望ましいのです。昼には「活動」を、夜には「睡眠」を行う、ということです。次の項では、これらについてさらに詳しくご紹介します。

<まとめ>
・食事
皮膚は体の一部。きちんと材料が揃わないと、健康な皮膚は出来上がらない。

・睡眠
新しい皮膚細胞の産生をする時間。新陳代謝を促す。

・適度な運動
自律神経バランスの均衡を支援する。さらにストレスを緩和する働きがある。 


2015.10.02.改訂 

1 栄養摂取は体全体のことを考えて 

ここからは、栄養についてご紹介しますが、口から取り入れた栄養は、まず生命の維持そのものに使われます。つまり、「生きる」ために使われるのです。私たちの細胞の活動には、エネルギーとしてATPという物質が必要です。これは、どの器官、組織の細胞でもそうです。ATPは、いわゆる3大栄養素(糖質、タンパク質、脂質)から生成されますから、これらは生命維持のためにどうしても不可欠だと言えます。中でも、糖質からはたくさんのATPを得られるため、とても効率のよいATP源であると言えます。そのうえで、さらに、それらの細胞が組織のなかで担う働きを行うために、必要な栄養素があります。それがビタミンやミネラルです。単に「生きる」ためだけに、ここまででいわゆる5大栄養素のすべてが登場したことになります。
皮膚を美しくしたい、という願望の前に、この「生きる」ために必要な要素がきちんと揃っていることが必要なのです。
皮膚は体の一部ですから、皮膚だけを美しくすることは無理なのです。



2 各国で研究される食事バランス

食事の栄養バランスは、現在、私たちの健康と寿命に大きく関わる要素として、非常に注目されています。世界各国で、医学的な根拠をもとにしながら、文化的な背景も含めて、健康を維持するためのバランスのよい食生活について研究されています。

日本では、食事バランスガイドというわかりやすい指針が示されており、まずはこれを参考に、あなたの食生活をはかってみるといいでしょう。

食事バランスガイド_イラスト

食事バランスガイドは、一日に「何を」「どれだけ」食べたらよいかが一目でわかる食事の目安です。主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物の五グループの食品を組み合わせて、バランスよくとれるよう、コマにたとえてそれぞれの適量をイラストでわかりやすく示しています。


※食事バランスガイドは、農林水産省、厚生労働省によって作成された指針です。
詳しくはhttp://www.maff.go.jp/j/balance_guide/をご確認ください。




コラム:いろいろな食事の基準

食事バランスガイドを参考にすることで、自分の1日の食生活に何が足りなかったのか、あるいは、何を摂りすぎているのか、に気付くことができます。とくに、一人暮らしの方や、外食が多い方は、バランスガイドを念頭においてメニューを選択すれば、かなり理想の食事ができるでしょう。

しかし、料理を提供する側に立つと、バランスガイドだけでは、体によい食事作りの指標としては足りないことに気付きます。料理に用いる食材には、様々な属性があり、それを上手に組み合わせたり、適した調理、調味をすることでより食べ易く、また体に取り込みやすくできます。よい食事作りには、食材や栄養素の属性に関する知識も欠かせないのです。
この知識に、先ほどのバランスガイドが示すような量やバランスの知識をプラスして、はじめて、料理を提供する側に活かせる基準となります。

料理を担当する人にとって便利な指標としては、女子栄養大学が提唱する「四群点数法」が挙げられるのではないでしょうか。これは食材を4つのグループに分け、それぞれのグループごとに、全体の食事量のなかでの比率を定め、用意する、というものです。
「四群点数法」における、区分と比率はこのようなものです。
第1群:卵、乳・乳製品(主にカルシウムの補給源となる食材)
第2群:魚介、肉、豆・豆製品
(主にタンパク質、ミネラルの補給源となる食材)
第3群:野菜、芋、果物
(主にビタミン、ミネラルの補給源となる食材)
第4群:穀物、油脂、砂糖、嗜好品(主にエネルギーの補給源となる食材)
これらの比率を、3:3:3:11の比率で食事を摂ると、理想的である、としています。

この他にも食事に関する指標はたくさんあります。たとえば、学校などで給食や食事摂取の説明をする際には、「三色食品群」が多く使用されています。これは、食材のもつ働きに応じて、子供にもわかりやすく、グループごとの属性と色を組み合わせて説明しています。この他に、古くからの食事の知恵を伝えているものもあります。禅宗のお寺などでは食材の色を基準にグループにわけて説明しているものもあります。

食事の知恵は、場所や時代、また誰が対象かによって様々に培われてきましたが、どの指標も「いかに様々な食材をバランスよく摂るか」を目指していることがわかりますね。


2015.10.02改訂

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