脂肪酸スキンケア:基礎編[概論]
2 肌タイプを見極める
3 スキンケア商品選びに疲れたら、シンプルなスキンケアをしてみる
4 乾燥肌を応援するスキンケア
1 スキンケアの基本・皮脂膜の強化にはうってつけの素材
では、ここからは4つのタイプのうち、乾燥肌タイプに焦点をあてたスキンケアについて、紹介していこうと思います。
化粧水で水分の補給を行っても、皮脂の分泌が少なく、皮脂膜の形成が弱い人の肌は、どうしても水分の保持が苦手です。そこで、今度は皮脂膜の形成を補助するスキンケアについて考えます。
皮脂膜の形成が弱いといっても、皮脂の分泌がゼロ、ということはないはずです。そこで、皮脂の量を補うものを加えてみましょう。皮脂の主成分は、油分ですから、油分の補給が必要になってきます。
油分を補って、肌の乾燥の改善を目指したスキンケアは、古くから行われてきました。たとえば、インドではゴマ油、ヨーロッパではオリーブオイル、羊や馬の脂を用いるところもあります。
油ですから、水とは混ざらない物性があります。この性質を利用して、肌の水分の蒸発をカバーする、と考えれば、乾燥肌に有効であることは言うまでもありません。
前項のような、化粧水だけのシンプルなスキンケアで、どこに、どのように保湿したいかが分ったら、
オイルなどの油分を使って皮脂膜の形成を助けてあげる、プラスアルファのスキンケアに取り組むことができます。
2 アブラにもいろいろ
ところで、単に「アブラ」とか「オイル」というと、実に多くの物質があります。
これから私が紹介したい油分とは「油脂」のことを差すのですが、油脂の他にもオイルや油と名のつくものはたくさんありますね。
たとえば、石油などもオイルと呼ばれるもののひとつです。また、アロマテラピーで用いられるエッセンシャルオイル、というのもありますね。
これらは、油脂を含めて、どれも疎水性の物質ですので、その点は共通しますが、分子構造は全く異なるものです。
ですから、オイル(油)と一口に言っても、まったく違う物質も含んでいるのです。
しかし、スキンケアには、これらのどのアブラも登場します。
まずは、これら油脂とは異なるオイルの成分やスキンケアについて、簡単に説明しておきましょう。
3 アロマテラピーの精油とは
アロマテラピーに用いる精油(エッセンシャルオイル)は、疎水性で脂溶性物質ではありますが、揮発性のテルペノイドと呼ばれる物質です。オイルと名がついていますが、「油」ではないのです。アロマテラピーでは、基本、エッセンシャルオイルをそのまま肌につけることはせず、キャリアオイル(ベースオイル)という油脂にまぜて、それを肌に塗布するなどし、植物のもつ有効成分を利用します。
4 石油と石炭
石油は、石炭と同じく化石資源のひとつですね。その物質の生成においては諸説ありますが、主に太古の昔に倒れた木や、バクテリアなどの生物であったものが、地球の地殻変動の作用を受け、それぞれ、石炭、石油になった、との説が有力とされています。
かつて地球上にまだ酸素が少なく、生物の屍骸が腐敗や酸化分解される事無く、海底に堆積し、その層が地球の地殻変動の影響による、圧力や、熱の影響を受け、さらに貯まり易いところへと移動しながら、やがて石油へと変わったのだ、されています。
また、石油を指して「ミネラルオイル」、または「鉱物油」と呼ぶこともあります。石油や石炭は、地層の奥深くに貯まっていることが多く、掘削するなどして、地中から取り出して使われます。かつて、掘削して地中から得られる資源はみな、「鉱物」として扱われ、石油もその仲間に分類されていました。その名残から、石油そのものにミネラルは含まれませんが、今でも、「ミネラルオイル」とか「鉱物油」と呼ばれたりするのです。
5 石油由来製品の是非
石油は、主に炭素と水素のみでできた炭化水素という物質で構成されています。この炭化水素の分子サイズが短いものもあるし、長いものもあります。その構造によって、性質が異なるため、得られた石油は「分留」という作業により、分けられます。
掘削された石油は原油と呼びますが、この原油を分子サイズに応じて分ける「分留」をすると、ガソリン、重油、軽油など、燃料に使えるものが得られます。その他のものが、さらに加工され、私たちの周りの様々なものに用いられています。
化粧品の成分としてもよく記載されているミネラルオイルも、石油から分留され得られた「流動パラフィン」をもとに、さらに化学反応や精製を繰り返して得られたものです。
戦時中など、質の悪いミネラルオイルが出回ったころ、精製が不十分で、精製しきれずに残存した石油由来成分が製品に混じったしまい、それが、皮膚の上で酸化され、いわゆる油焼けや炎症を起こした、という事例もありました。石油由来製品を安全に使おうと思えば、とにかく精製の精度が大前提です。近年では、そういったケースでのトラブルは非常に少なくなり、皮膚への吸着力や、保湿力の点では、すぐれた素材も数多く開発されています。
さらに、石油由来のスキンケア材は、タンパク質を含みませんから、アレルギーの心配もないことになります。アレルギーの発症が決して珍しくない現代では、この点も石油由来の化粧品が選ばれる理由の一つでしょう。
一般に石油由来の炭化水素は、分子量が大きく、人体にとって栄養にはなりません。したがって、このような炭化水素を成分とするオイルを皮膚に塗っても、皮脂には馴染みますが、それが代謝されることはなく、また皮膚常在菌のエサにもならないとされています。(今後、変化する可能性もあります。)それゆえ、非常にニュートラルな物質なのです。つまり、利用できる栄養素を含まないため、人体にとっては何の化学反応もおきないのです。保湿材として、非常に優秀な物質ですが、単に蓋をして、水分を閉じ込めている、というだけにすぎないのです。
しかし、この作用が好都合である人もいます。たとえば脂性肌のスキンケアにおいては、皮脂の分泌が過剰で、皮脂膜の酸化や常在菌の作用がかえってトラブルを招くこともあります。しかし、部分的な乾燥に対してオイルを用いようとすれば、このように栄養価のないオイルで、単純に水分を閉じ込めたスキンケアのほうが効果的であることもあるのです。
5 油脂によるスキンケアは「似た成分を補う」ということ
では、最後に油脂におけるスキンケアついてご紹介しましょう。
油脂とは、一般に生物が作り出す有機物のひとつです。栄養学的には糖質、蛋白質と区別して「脂質」と呼びます。糖質、蛋白質、脂質は、人体には不可欠な栄養素であり、3大栄養素とも呼ばれます。
脂質は、人体だけでなく、細胞をもつすべての生物に不可欠な栄養素です。脂質をどう利用するかは、生物によって若干の違いはありますが、どの生物にも共通する点があります。それは、生物の最小単位である、細胞の膜を構成する成分である、ということです。
生物の体は、細胞の集まりです。一つ一つの細胞は、膜で外界と内部を仕切っています。細胞内には、化学反応の場があり、それに必要な水分や栄養を出し入れする重要な役割を担うのが細胞膜です。細胞膜は、リン脂質という脂質が主成分となっています。
私たちの体の細胞は日々の新陳代謝で、新しいものと古いものが入れ替わっていますが、それを支えるのが食事です。
私たちの体は食事でとった栄養素をもとに、体内で様々な化学反応のすえ、最合成して作り出されているのです。
私たちの食糧となるものは、植物や、動物の肉など、他の生き物であることがほとんどです。これは、種は違っても同じ生物同士なので、生きるのに必要なものが似ていることがあるため、食べることで、それを利用している、ということなのです。
食べて取り込んだ栄養は、私たちの体内で起こる化学反応に用いられ、新たなものに作り替えられて利用されます。しかし、この作り替えたものも、人間用に作り替えられてはいますが、人間も生物としては同じですので、物質の組成自体は他の生物のものとそう違いは無かったりするのです。
皮脂においても同じです。人間の分泌する皮脂は、人間独特の組成ではありますが、似た物性をもつ脂質を合成する植物や動物は少なくないのです。
皮脂に似た物質を与える。これが油脂を使ったスキンケアの最大の特徴である、といえます。
似た成分であれば、成分同士はよくなじみます。
油脂は、ドライスキンの足りない皮脂を補う、格好の材料である、と言えるのです。