1 水分を守る城壁

 私たちは皮膚の1/3を失うと、命の危険にさらされることになります。皮膚を失うことで、内部組織が剥き出しになると、細菌などによる感染や侵入を防げなくなりますし、何より水分の蒸散を止めることができません。
 そもそも、生命は水が無ければ誕生しなかった、と考えられています。多細胞生物となって、より大きく、より多機能な体へと進化していきますが、その細胞ひとつひとつに水が不可欠であることに変わりはありませんでした。さらに、乾燥に耐えるよう進化し、生活の場を陸へと移していった生物も、やはり水分が枯渇してしまっては生命を維持できません。熾烈な生存競争を繰り返しながら、陸へと進出した生物ですが、それは「水分の確保」という、大きな命題を背負っての進化だった、と言えます。
私たち人間も陸で暮らす生物として誕生し、もはや水中では暮らせませんが、かといって、体内組成成分の約70%は水分であり、自ら大量の水分を蓄えて生きていることがわかります。この水分を守っている最も主要な器官が皮膚なのです。


2 強固な壁として、死んだ細胞を利用する

しかし、皮膚表面を見ると、他のどの組織、器官もたっぷりと水分を含んでいるのに比べ、限りなく乾いた状態にあります。皮膚の構造のところでお話したように、皮膚の最外層である角層を構成する角層細胞は、多少の保水能力は持っていても、それ自体は
もはや生命活動をしない、死んだ細胞に他なりません。死んだ細胞を盾にしながら、内側の水分を守っているのです。


3 角層の柔軟性を支えるファクター

角層を構成する角質細胞は、細胞とは名ばかりの、死んだ細胞のタンパク質成分が主体となったものです。死んだ細胞のタンパク質を皮膚の表面に貼付けて、内部の乾燥を防いでいるわけですが、しかし、柔軟性のある皮膚表面を覆うには、角層自体にも柔軟性が必要です。そこで、角層には、主成分であるタンパク質ケラチンの他に、細胞が皮膚組織内で成熟していく過程で生成したNMFも一緒に含まれています。このNWFは水分を捉える分子構造をしていて、これがあるおかげで、角層はまるで生きている細胞のように水分を蓄えることができるのです。さらに、同じく細胞が成熟する過程で生成されるセラミドなどの細胞間脂質が隙間をうめるように満たされていて、外部からの物質の侵入を防いでいます。角層は乾きやすくはあるものの、潤いを保持できる成分もちゃんと持っているため、柔らかく弾力もあるのです。

・1 細胞間脂質
表皮の角質層では、ケラチンを主成分とする角質細胞が並んでいて、その細胞どうしの間をうめるように存在しているのが細胞間脂質です。これが、水分の蒸散を防いでいます。細胞間脂質には、いくつか種類がありますが、中でも最も代表的なものが「セラミド」でしょう。スフィンゴ脂質という、脂質の一種です。

・2 NMF(ナチュラルモイストファクター)
 文字どおり、天然の保湿成分です。外界に接する角質層は常に乾燥に耐えなければなりません。そのため、角質細胞のなかには、うるおい成分を逃がさないためのNMFという物質が存在します。この成分を保持することで、細胞の外へ水分が逃げにくくなるのです。しかし、若い細胞内にはNMFが多く存在しますが、最表面に近づくにしたがって、次第にNMFを保持できなくなってきます。
 

角層
ラメラ構造



2015.09.25改訂