1 肌が受ける様々なリスクについて知っておく

 様々な機能や仕組みによって、皮膚には体を守り、また皮膚自体を守るシステムがあります。
しかし、それをもってしても、外からの因子に負けてしまうときがあります。

[紫外線]
皮膚には太陽光に含まれる紫外線から体内を守るための機能があります。紫外線は細胞内の遺伝子を変異させ、働きを狂わせるリスク因子です。皮膚組織は、体内組織に比べて、紫外線への抵抗力があり、また紫外線から受けたダメージを処理する仕組みもあります。これにより、本来、有害な太陽光の下でも、私たちはその作用を体内環境に直接受けずに活動できるのです。しかし、現代は、薄くなってしまったオゾン層のせいで、さらに多くの紫外線が地表まで到達し易くなっているとされています。あまり多くの紫外線にされされると、皮膚細胞も処理しきれず、破壊されてしまいます。皮膚細胞が破壊されると、皮膚ガンなどを発症し易くなります。

[大気汚染物質]
大気汚染物質も、皮膚の健康には大きな影響をもたらします。自動車から排出される排気ガスに含まれる成分には、皮脂膜に付着すると、化学変化をおこし、皮脂膜や皮膚常在菌の働きを弱めてしまうものがあります。皮膚のバリア機能が破壊されると、皮膚は乾燥しやすくなり、刺激に敏感に反応するようになります。また、よかれと思って使っている化粧品やスキンケア用品の成分などが、リスク因子となってしまう場合もあります。

[活性酸素]
こうした外からの因子の他にも、私たち自身の体調の変化が、皮膚に影響している場合もあります。
食べ物やストレス、ホルモン分泌の変化によって、汗や皮脂として分泌される成分に変化がおきると、皮脂膜自体も変質することになります。皮脂膜の変化は皮膚常在菌のバランスにも影響するため、これら、様々な要素が複合的に合わさることで、皮膚のコンディションは時に大きく変化することがあります。
さらに、細菌感染や、病気などになれば、体内で活性酸素が過剰に発生することになり、これが細胞の働きを阻害し、皮膚のコンディションが悪化したり、疾患に発展することもあります。


3 化粧品の作用は、角層まで

さて、スキンケア商品の多くはそれぞれに様々な謳い文句を掲げながら、しかし、基本的に必ず含んでいるものがあります。それは、角層の潤い、すなわち水分を保たせる成分です。


ところが、角層の潤い成分は、年齢とともに減っていきます。子供の肌と大人の肌では、質感が違っていますね。子供の皮膚組織はまだ未熟でうすく、また細胞自体の新陳代謝も早いため、死んだ細胞とはいえ角層に上がってくる角質細胞にもまだまだたくさんの保水成分が含まれています。このため、子供の肌は弾けるようにみずみずしいのです。大人になるごとに、体は完成していき、新陳代謝の速度も落ち着き、皮膚組織も厚くなっていきます。角層はしっかりと外部からの侵入を防ぐ城壁のようになっていきます。子供のころのようなみずみずしさはなくなりますが、格段に乾燥に耐えられるようになっています。
厚くなった大人の皮膚では、その最外層の角層はどうしても保水力が落ちてきます。さらに、新陳代謝がおちてくると古い角質がいつまでもおちずに居残り、それがかえって内部の乾燥を招いてしまうこともあります。乾いた角質が厚くなると、シワが深くなり、みずみずしさも消えて、老けた印象になってしまいます。
この、乾燥しやすい大人の肌をケアするのが、ベーススキンケアの主たる目的です。角層の潤いを補うのは簡単なようで、実は難しいことです。単に水を塗っても、すぐ乾いてしまうように、角層に水を含ませたところで、あっという間に再び乾燥してしまいます。
スキンケアの知恵は古くから培われてきましたが、医学の進歩とともに、
皮膚の構造がより詳しく研究され、その知識がスキンケアにも活かされるようになっていきました。スキンケア商品のほとんどは、NMFや、細胞間脂質、あるいはそれに似た成分を配合したり、皮脂膜を壊さず補強できるような設計をしています。やはり、人間の皮膚には人間の体で生成したものが一番合うということなのですね。
科学技術が向上するに従い、人体が生成するものに、より近い成分を開発することができるようになって、今日の優れた化粧品、スキンケア用品が作られるようになっていったのです。 
とはいえ、スキンケアによる対処には限界があります。薬事法という法律によって、「化粧品」に分類されるものは基本的には角層より奥に浸透するように設計してはいけないことになっています。これは。人体の免疫システムを刺激して、深刻な事態に陥らないための予防策なのです。ですから、既製品によるスキンケアでできることは、あくまで角層への対応になるのです。

1 スキンケア商品は効果的かもしれないが、リスクもある

 ここまでで、皮膚が担う働きや機能、そして、皮膚の組織構造や、皮膚がさらされている様々なリスクについて、おおまかにご紹介してきました。皮膚についての知識をある程度もっていることは、皮膚のコンディションを保つためには必要なことですし、調子が悪いときには、その原因についてある程度見当をつけ、すばやく対処することができます。
 さて、では、自分の肌の健康のために何かをしようと考えるとき、あなたはどんなことを思い浮かべるでしょう。とかく、肌へのアクションと言えば、私たちはまず肌に直接、外から何らかのケアをしようと考えがちです。目に見えるトラブルにはなおのこと、そこだけにケアをしようとしますね。たとえば、傷や虫さされ、炎症とか、局所的なトラブルに適した薬を塗って治そうとすることは正しい選択です。また、患部の大小に関わらず、症状がこじれたり、異常を感じるなどした時は、医療機関での治療が必要になってきます。しかし、そのような病的ではない、肌の質感や、乾燥などの慢性的な肌の悩みにおいても、私たちは有効なスキンケアを探します。それも、できるだけ、てっとり早く、しかも、魔法のように効果のあるものを。

化粧品製造における技術の革新や、新規成分も多く開発される昨今は、たしかに目覚ましい進歩が見られます。日々、新しい商品が誕生しています。しかしながら、化粧品による問題も数多く発生しているのが実状です。問題発生の根本原因には、さまざまなものがありますが、特に新しく開発された成分が問題となる場合は、人体における検証が不十分であった可能性があります。また、成分自体が特別に新しいものでなくとも、材料や製造工程に変更が加わることで、分子構造などに違いが生じ、それがそれまでには無かった影響を及ぼすこともあります。化粧品の成分表示では、一般名称が使われることが多く、その名称だけではその物質の分子構造までは解りません。さらに、何より、人体のしくみは現在でも、完全に解明されていない部分が多くある、ということが挙げられます。
近年の様々なニュースから、消費者である私たちは、商品の区分が「化粧品」であるからといって、けして軽んじて扱っていいものではなく、技術が革新して効果が期待できる分、リスクをともなっている可能性をも把握しておかなければならないのかもしれません。


皮膚の健康には、これらの因子も影響するということを理解しておきましょう。




2015.9.25 改訂